低温センター談話会(水島 健氏)
日時
平成27年2月3日(火)15:00〜16:00
場所
東京大学低温センター3階 セミナー室
講師
水島 健氏 (阪大・基礎工)
題目
超流動3Heから観る対称性によって守られたトポロジカル相の物理
解説
 近年、トポロジーに基づいた新たな物質観が広がりをみせている。まず量子ホール系に導入されたこの物質観は、ホール伝導度の量子化とトポロジカル不変量との対応関係を明らかにし、さらに、ギャップレスなエッジ状態の存在を暴く等、多くの成功をおさめてきた[1]。特に、マヨラナ粒子と呼ばれる奇妙な粒子がトポロジカル超伝導体の表面や界面に内在することが指摘されたことが引金となり、爆発的な勢いで研究が展開されている[2]。
 超流動3HeのB相は時間反転対称性を保った超流動相であり、自発的なスピン・軌道対称性の破れを伴う。時間反転対称性とスピン・軌道相互作用の発現により、B相はトポロジカル超流動であるということが理論的に明らかとなった[3]。この理論的示唆により、超流動3Heはトポロジカル超伝導研究の檜舞台へと躍り出た。一方で、有限磁場の下では時間反転対称性が破れるため、トポロジカル超流動特性やマヨラナ粒子が消失すると思われていた。このような従来の理解に反して、我々は、時間反転対称性が破れる磁場下においてもB相のトポロジカル超流動特性とマヨラナ粒子が存在し得ることを明らかにした[4]。このトポロジカル相は時間反転操作とスピン・軌道の離散操作を組み合わせた離散対称性によって保たれている。さらに、この「離散対称性によって保たれたトポロジカル相」が「離散対称性を自発的に破った非トポロジカル相」へと相転移する臨界磁場が存在することを定量的に示した。また、この臨界磁場近傍では異常な磁気応答が示されるが、これは表面マヨラナ粒子の特徴として理解される[5]。この自発的対称性の破れを伴うトポロジカル相転移は、従来のトポロジカル超伝導理論では説明できない新しい量子現象であり、トポロジーと対称性の関係性が顕在化した典型例である[6]。
 本講演では、超流動3Heを軸として、トポロジカル超伝導と対称性の蜜月な関係性を詳しく解説する。さらには、超流動3Heと類似したトポロジカル超伝導特性を持つ重い電子系超伝導UPt3[7]やトポロジカル絶縁体を母物質としたCuxBi2Se3等の研究の現状[8]に触れながら、超流動3He研究の重要性や今後の課題を共有したい。

[1] D. J. Thouless, et al., Phys. Rev. Lett. 49, 405 (1982).
[2] Y. Tanaka, M. Sato, and N. Nagaosa, J. Phys. Soc. Jpn. 81, 011013 (2012).
[3] A. P. Schnyder, et al., Phys. Rev. B 78, 195125 (2008).
[4] T. Mizushima, M. Sato, and K. Machida, Phys. Rev. Lett. 109, 165301 (2012).
[5] T. Mizushima, Phys. Rev. B 86, 094518 (2012); ibid 90, 184506 (2014)
[6] T. Mizushima, et al., arXiv:1409.6094, to appear in J. Phys.: Condensed Matter.
[7] Y. Tsutsumi, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 82, 113707 (2013).
[8] T. Mizushima, et al., Phys. Rev. B 90, 184516 (2014)