低温センター談話会(村川 智氏)
日時
平成26年3月6日(木)14:30〜15:30
場所
東京大学理学部1号館中央棟4階445号室
講師
村川 智氏 (慶大・理工)
題目
トポロジカル超流動の表面状態−超流動3He-B 相の表面アンドレーエフ束縛状態とマヨラナ状態−
談話会資料
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解説
 近年、トポロジカル絶縁体から着想を得たトポロジカル超伝導・超流動が大きな注目を集めている。 このトポロジカル超伝導・超流動はバルク−エッジ対応により、表面にギャップレスな状態が現れることが知られているため、表面状態の研究が活発に行われている。
 多くの超流動体・超伝導体の中から我々は超流動ヘリウム3(3He)に着目している。 超流動3Heはp波スピン3重項超流動体であるため、複数の相が存在することが知られ、そのバルクの性質は詳細に研究されてきた。 その中でもバルクでは等方的なギャップ2Δを持つB相と呼ばれる相は、トポロジカル超流動体であることが理論的に示されている[1]。 また超流動3Heは不純物が極端に少ないため、表面状態の研究を行う試料として理想的である。 バルク−エッジ対応から予想される表面状態は、超流動3He-B相では表面アンドレーエフ束縛状態(Surface Andreev bound states; SABS )として現れるが、それがマヨラナフェルミ粒子であるとの指摘がされた。 SABSは壁での準粒子散乱の境界条件である鏡面度Sに大きく依存し、特に鏡面散乱極限(S=1)では、SABSバンドの幅Δ*が広がりギャップレスになり、エネルギーに比例する表面状態密度が現れ、表面にマヨラナコーンが存在することが示されている[2]。
 我々はその超流動3He-B 相のSABSを、液体3Heに浸したずれ振動するAC-cut 水晶振動子の複素音響インピーダンス(Z)測定により調べてきた。Sは壁を4He薄膜でコートすることで制御することができる。
 この測定から、ギャップ内に構造を持つ低エネルギー励起状態のSABSがあること[3]、およびSABSのバンド幅Δ*がSの増大ともに大きくなることが示され、それは理論計算と定性的に一致した[4]。
 また、鏡面度が拡散的散乱条件ではない(S>0)とき、新たなピークがZの温度依存性に現れ、そのピークはSの増加にともない成長した。 この低温ピークはSABSのゼロエネルギー状態が減少したことから生じると理論計算から示され、その成長はマヨラナコーンへと漸近する振る舞いと見なせる。 これは鏡面散乱極限(S=1)の極限で現れると予測されているマヨラナコーンの存在を強く支持する実験結果である[5,6]。

[1] A. P. Schnyder et al., Phys. Rev. B 78, 195125 (2008).
[2] Y. Nagato et al., J. Low Temp. Phys. 149, 294 (2007).
[3] Y. Aoki et al., Phys. Rev. Lett. 95, 075301 (2005); M. Saitoh et al., Phys. Rev. B 74, 220505(R) (2006).
[4] Y. Wada et al., Phys. Rev. B 78, 214516 (2008).
[5] S. Murakawa et al., Phys. Rev. Lett. 103, 155301 (2009)
[6] S. Murakawa et al., J. Phys. Soc. Jpn. 80, 013602 (2011).