強相関電子系における単結晶育成と輸送特性
新規単結晶育成
通常、焼結体試料の合成が不可能な物質は単結晶も出来ないと考れられがちですが、実はそうではありません。融点以下で反応させる固相反応法と、物質を溶かして固める単結晶成長では原理的に反応方法が異なるので、焼結体でも合成が困難な物質でも単結晶なら合成できる場合があります。私はこれまで、高温超伝導体Bi2Sr2Ca2Cu3O10+δ(Bi-2223)をはじめBi系高温超伝導体母物質(Bi2Sr2-xLaxCaCu2O8)、熱電コバルト酸化物(KxCoO2,
RbxCoO2,
CsxCoO2)などの単結晶合成に成功しました。この様に単結晶成長を通して新規物質の開発を行っています。
マクロなプローブでミクロを探る
物性物理の研究においては、均一な空間を取り扱い、なるべく均質な試料を用いて測定を行うのが通常です。そこでは、不均一(相分離)は単なるextrinsicな効果であると考えられてきました。しかし強相関電子系では、スピン、電荷、軌道の自由度が絡み合い、様々な秩序(相)が競合、共存し、その結果高温超伝導や巨大磁気抵抗のような特異な物性が現れると考えられます。この様に特異な物性の背景にあるのは「電子の自己組織化」によるナノオーダーの相分離や電荷秩序であることが認識され始めていますが、私の研究目標はこのような自己組織化を、ネルンスト効果やノイズ測定などのマクロな輸送特性によって観測する方法を確立することです。さらに、このような物質の高次の階層構造を理解することによって、新たな物理を見出し、巨大応答を示す新規機能性物質を開発することも大きな目標としています。