ゼーベック効果は試料に温度勾配があるときに試料の両端に起電力が発生する現象であり、これを応用し廃熱から直接電気エネルギーを取り出すことができると考えられている。効率よく電気を取り出すためには、大きな熱起電力Sと低い抵抗率ρが必要となるが、これらはキャリア濃度の関数であり、独立に制御することは難しい。しかし、キャリア濃度が最適値に固定された下では、有効質量を大きくすることによってSが増大し、移動度を大きくすることでρを小さくすることができる。
近年、MgZnO/ZnOヘテロ界面において形成される二次元電子ガス(2DEG)が、大きな移動度と有効質量をもつことが報告されている [1]。そこで、今回我々は電気二重層トランジスタ(EDLT)を用いてZnOの2DEG状態を実現することを試みた。EDLTは電界効果トランジスタ(FET)の絶縁層として電解液を用いたものであり、従来のFETよりも多い10
14~10
15cm
-2の 2DEGを実現できる[2]。また、化学ドーピングと異なり不純物散乱なしにキャリアをドープできるため、さらなる熱電性能の向上が期待できる。
図1に、様々にゲート電圧(GV)を変化させた時の、シート抵抗率と熱起電力を示す。GVを印可すると、2V~3Vの間で金属-絶縁体転移を起こし、大きく抵抗率が減少するとともに、Sの絶対値も減少する。これは、EDLTによりキャリア濃度が増加したためだと考えられる。SrTiO3の超格子においては、2DEGによる熱起電力の増加が観測されているが[3]、今回は熱起電力の増加は見られず、完全な2DEGを実現できていないと考えられる。そこで、GV=4Vでのホール測定から求めた面密度5×10
13cm
-2と、ZnOにおける金属-絶縁体転移の臨界キャリア密度 4.9×10
19cm
-3を用いて、キャリアの注入層の厚さを見積もると、膜厚は10nm程度と考えられる。電子層のPowerFactor(PF=S
2/ρ)は300Kで10
-3Wm
-1K
-2以上となり、図2のようにZnOの化学ドープにより得られている値[4, 5]よりも高いPFが、 EDLTにより得られたといえる。
図1:電界効果によるZnO焼結体のρ2D,Sの変化
図2:2DEG層のPowerFactor
[1]A. Tsukazaki, st al., Nat. Matr. 9, 889 (2010)
[2]A. S. Dhoot, et al., Proc. Natl. Acad.Sci. 103, 11834 (2006)
[3]H. Ohta, et al., Nat. Matr. 6, 129 (2007)
[4]M.Ohtaki et al., J. Electron. Mater. 38, 1234 (2009)
[5]D. Berarden et al., J. Am. Ceram. Soc. 93, 2352 (2010)