研究テーマ

Reserch topics


この研究室では超低温でヘリウムに現れる超流動に現れる新しい現象に着目しています。

1. 低温とは

温度は身近な物理量で、毎日天気予報などで見ていると思います。
物理学的には温度はエネルギーの指標であり、絶対零度では、すべての物質が静止してエネルギーが零の状態になります。
また、自由エネルギーを考えると、

\( F = E - TS \)

なので、温度が下がるとエントロピーSの効果が小さくなり、エネルギーEの小さな状態が実現するようになります。
このエネルギーEの最低の状態を基底状態と呼び、 基底状態の探索およびそこからの励起状態の振る舞いを研究することは物性物理学の目的のひとつです。
また、低温では粒子の波動性が見えてきます。粒子の波動性の指標である熱的ドブロイ波長というものがありますが、 これは
\[ \lambda = \frac{h}{\sqrt{2\pi mk_{B}T}} \] という式で表され、質量m、および温度Tが小さくなると長くなります。
さまざまな量子性はこの熱的ドブロイ波長が粒子間距離と同程度になると出てくるため、 軽い粒子を低温にすると量子現象が現れます。
具体的に有名な現象では電子による超伝導とヘリウムによる超流動などがあげられます。
熱的ドブロイ波のイメージ

2. 超低温におけるヘリウム

ヘリウム(He)は原子番号2の一番軽い希ガスです。そのため、低温では強い量子性を示します。
液体になる温度は1気圧で4.2 Kと世の中で一番低く、質量が軽いため零点振動が大く、絶対零度においても固体にならず、液体のままで存在します。
その液体ヘリウムの基底状態は何なのでしょうか?運動エネルギーをもつ通常の液体のままなのでしょうか?
普通の物質の相図 ヘリウムの相図
普通の物質の相図          ヘリウム4の相図    

3. 超流動 

その答えが超流動です。

液体ヘリウムを2.17 K以下の温度にすると相転移を起こし、超流動になります。
超流動は超伝導と関連し、ボースアインシュタイン凝縮により現れる相で、ヘリウムの量子性の現れです。
超伝導は電子が抵抗なしで流れる現象ですが、超流動はヘリウム原子が抵抗(摩擦)なしで流れる現象です。
超流動特有のよく知られている現象としてはフィルムフローや噴水効果があげられます。
また、ある閉曲線上の速度を線積分した循環という物理量が量子化し、量子渦と呼ばれ、超流動の運動を考える上で大きな役割を担います。
\[ \kappa = \oint _C v_s \cdot dl = \frac{h}{m}n \]

4. ヘリウム3 

通常のヘリウムは質量数4(4He)ですが、ヘリウムにはもう一つ質量数3の安定同位体(3He)が存在します。
ヘリウム4 ヘリウム3
このため、ヘリウムはボース粒子(4He)とフェルミ粒子(3He)の二つの異なる量子統計に従う粒子の研究を行うことが出来ます。
下にヘリウム3の相図を示します。沸点や凝固圧なども違いますが、 それは質量数がヘリウム4より小さいことで説明できます。
統計性の違いは、超流動の現れる温度領域に現れます。
ヘリウム4は2 K程度でしたが、ヘリウム3はその1000分の1程度の温度にならないと超流動になりません。
これは、超流動なる機構がボース粒子とフェルミ粒子で異なるためです。
超流動ヘリウム3はフェルミ粒子なので超伝導と同じくクーパー対を作成し、BCS機構で超流動になります
しかし、超流動ヘリウム3は通常の超伝導物質(s波スピン一重項)とは異なる内部自由度を持つp波スピン3重項のクーパー対の対称性を持ちます。
このため、超流動ヘリウム3にはA相、B相と二つの安定な相が存在することが知られています。

ヘリウム3の相図

5. 超流動ヘリウム3の表面状態

近年、超流動ヘリウム3B相はトポロジカル超流動と観点から大変注目を集めています。
トポロジカル物質では表面に新しい状態が現れるため、盛んに研究が行われています。
特にその新しい表面状態は粒子と反粒子が同じマヨラナ状態といわれており、
私たちの研究室ではその性質を明らかにするための研究を行っています。
マヨラナの概念図

6. コンパクトな冷凍機の開発

300 mK以下の極低温を作成するには希釈冷凍機が、10mK以下の温度を作成するには核断熱消磁冷凍機が必要です。
これらの装置は高い天井や深いピットが必要で通常の研究室で使用することには高いハードルがあります。
現在、私たちの研究室では日本女子大の石黒研と共同でシリコン微細加工技術を用いたマイクロ流路による小型希釈冷凍機の
理学系研究科の福山研と共同で二段式の小型核断熱消磁冷凍機の開発を行っています。


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