液体ヘリウムの超流動
超流動現象

 超流動は、1932年に液体ヘリウム(4He)の比熱が2.17 K(ケルビン:絶対温度:0 K = −273.15 ℃)で異常増大することが観測され、1938年にその温度以下で粘性が5桁近くも低下することが確かめられたことで、発見されました。

 超流動とは、一定の流速以下なら液体の粘性抵抗が消失する状態です。そこでは、液体が容器の壁をよじ登ってこぼれ出したり、通常の液体では通り抜けられないような狭い隙間から流れ出るなどといった、不思議な現象が見られます。

 この原因は、4Heがボーズ粒子(ボゾン)であるという点にあります。極低温状態では、とりうるエネルギー準位が少なくなるため、多数のボーズ粒子が1つの準位に集中します(ボーズ・アインシュタイン凝縮)。基底状態まで落ち込んだボーズ粒子が、粒子間の相互作用のために簡単には励起されなくなると、エネルギーを失うことなしに(散乱されずに)移動することができます。

 超流動現象はボーズ粒子特有のものなので、同じヘリウムでも、フェルミオンである3Heは超流動にならないと考えられていました。ところが、2.5 mKまで冷却すると液体3Heも超流動状態になることが1972年に確認されました。この原因は、2つの3Heの間に実効的に弱い引力相互作用が働いてクーパーペアを作るためだと考えられています。

 注) 陽子、中性子、電子はすべてフェルミオン。4Heは陽子2個、中性子2個、電子2個からできているのでボゾン。3Heは陽子2個、中性子1個、電子2個からできているので、フェルミオン。

超流動転移

 液体ヘリウムの沸点は4.2 K(−269 ℃)と非常に低く、通常我々が、ガラスデュワーに入れて見たときは、火にかけられて沸騰しているお湯の様に、ぶくぶく沸騰しています。

 真空ポンプによってヘリウムの蒸気圧を下げると、沸騰する温度が徐々に下がり(富士山の山頂[標高3776 m、気圧約638 hPa]では水の沸点が100 ℃から約88 ℃まで下がるのと同じことです。)、蒸気圧が約37 torr(約49.8 hPa)になると、液体ヘリウムの沸点が約2.17 Kまで下がります。この温度で相転移を起こし、通常の液体ヘリウム(常流動状態 [He-I]) から超流動状態 [He-II]に変わります。

 超流動ヘリウムには摩擦がありませんので、外部から熱が入って温度を上昇させようとしても、瞬間的に周囲から冷たい液体が流れ込んでその熱を奪い、最終的に熱は液面から蒸発していく気体ヘリウムによって運びだされます。そのために、液体内部の温度が不均一な箇所から沸騰して蒸気の泡がぶくぶく出ることは全くなくなってしまいます。従って2.17 K以下になったとたんに沸騰が止み、静かな液面になります。

図1に示すように本実験では、2重のガラスデュワー(魔法瓶)を使っていて、液体ヘリウムを入れるデュワーの外に液体窒素(沸点約78 K)が入っています。写真や動画に写っている気泡は、液体窒素の沸騰によるものです。

 写真1は超流動状態にあるヘリウムの液面の写真です。まわりに入っている液体窒素はぶくぶく沸騰していますが、ヘリウムの液面はとても静かです。

図1および写真1

噴水効果

 超流動状態にある液体ヘリウム中には、粘性抵抗なしで流れることが可能な超流動成分と粘性を持つ常流動成分の両方が存在しています。この成分比は温度に依存しており、低温になるほど超流動成分が多くなります。

 図2のように2つのシリンダをとても細い管でつなぎ、Aのシリンダを温めると、Aのシリンダ内の超流動成分が常流動成分に変わり、超流動成分の濃度が下がります。その結果生じた化学ポテンシャルの違いを打ち消すように、Bのシリンダから超流動成分がAのシリンダに流れ込んできます。このとき、超流動成分は粘性抵抗がないために細管を通って高温部に流れることができるのですが、常流動成分は粘性抵抗のために細管を通ることができないので、Aのシリンダの液面が上昇します。(熱機械効果)

図2および写真2
熱機械効果(zipファイル1,744 KB)
(右クリックして保存してからご覧ください)


 写真2の真ん中にガラス管がありますが、このガラス管の下端には常流動成分が通れないぐらい細かい鉄の粉が詰まっています。管の中にはヒーターがあり、ガラス管の中の超流動状態にある液体ヘリウムを熱すると、超流動成分が常流動成分に変わり、超流動成分の濃度が下がるため、超流動成分が下からガラス管の中に流れ込み、液面が上昇します。また、図3のように高温部に小さい出口を設けておくと、超流動ヘリウムがそこから噴水のように吐き出ます。これを噴水効果と言います(写真3)。

図3および写真3
噴水効果(zipファイル1,738 KB)
(右クリックして保存してからご覧ください)

壁をよじ登る超流動ヘリウム

 ガラスコップの中に注いだ水は、勝手にコップの壁をよじ登って外に流れ出たりはしません。しかし、よく考えてみると、壁のごく近傍では、ガラス分子と水分子の間に水分子同士の間より強い引力が働くので、ごくごく薄い水膜が壁面を覆っているはずです(重力のため高い位置ほど膜厚は薄い)。外壁まで水膜が連続的に覆っていれば、コップの中の水がその膜を伝って、ほんの少しくらい外に流れ出る可能性はないのでしょうか?その方が水全体のポテンシャル(重力)エネルギーは下がるからです。でも、そんな不思議な現象は普通は起こりません。なぜなら、普通の液体には粘性があり、大きな摩擦のためにガラス壁面をよじ登ることなどできないからです。

 ところが、超流動状態にある液体ヘリウムの場合、超流動成分と壁との間に摩擦がないので、上で述べたような理屈でコップからこぼれ出てしまうのです。壁を伝うヘリウムの厚みは数百オングストロームと非常に薄くて肉眼では見えませんが、その流速は最大で毎秒数十cmにも及びます。映像には、壁を伝ってガラスのバケツからこぼれだした超流動状態にあるヘリウムが、バケツの底から滴る様子と、下の液面に、滴り落ちた波紋がはっきり見られます。

図3および写真3
壁をよじ登る超流動He(zipファイル1,732 KB)
(右クリックして保存してからご覧ください)

[ このページのトップへ ]