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鉄系超伝導体Ba(Fe1-xCox)2As2のネルンスト効果
鉄系超伝導体の一つであるBaFe2As2 は、140 K 付近で構造相転移が生じ、反強磁性秩序が起こることが知られている。また元素置換することによって反強磁性秩序であるスピン密度波 (SDW) が抑制され、低温において超伝導が発現することが知られている。近年、その中でもBaFe2(As1-xPx)2 において、磁気トルクの測定により、構造相転移温度以上で二回対称性(C2 対称性)が観測され、結晶格子から期待される回転対称性を電子系が自発的に破る電子ネマティック秩序状態が実現されていると報告されている[1]。本研究では電荷秩序や超伝導vortex に敏感なプローブであると考えられる、ネルンスト効果の測定を行い、どのように反強磁性秩序が超伝導に発展していくのか、また報告されているネマティック秩序相が観測されるかを調べた。
図1にネルンスト係数と抵抗率の温度依存性を示す。x=0の母物質ではSDWの転移に伴いネルンスト係数の増大が見られる。そのピーク値は1.6μV/KTと非常に大きく、ネルンスト効果が電荷秩序に敏感なプローブであることが良く分かる。Coをドープしていくと抵抗率と同様に、SDWによる変化の方向が変化し、転移と共にネルンスト係数は減少する。さらにドープを進めると、ネルンスト係数はほとんど温度依存性のない小さな値になる。一方、ネルンスト係数の温度依存性に着目すると、SDW転移温度より高温において、抵抗率には何の変化も見られないものの、ネルンスト係数に変化が見られる。図に示したように、変化の前後においてネルンスト係数を直線で外挿した交点をT*と定義すると、その温度T*はトルクの実験で報告されているネマティック相とほぼ一致し、ネルンスト効果によってネマティック秩序が観測できたものと考えられる。
超伝導状態における振る舞いを見るために、x=0.066の低温におけるネルンストシグナルを図2に示す。図に見られるように、明瞭なVortexによるネルンストシグナルの増大が観測された。銅酸化物高温超伝導体の場合、超伝導転移温度Tcより遥かに高温からネルンストシグナルの増大が観測されているが、ここでは、増大し始める温度TonsetはTcとほぼ一致しており、高温超伝導体とは異なる結果が得られた。
[1] S. Kasahara et al., Nature 486, 382 (2012).


図1 : 抵抗率とネルンスト係数の温度依存性


図2 : Vortexによるネルンスト効果